マユゲは近づいてきた。
マユゲの口がゆっくりとひらく。ヒゲは息を飲んだ。
すると、マユゲはヒゲが聞いたこともないようなコトバを喋りはじめた。
ヒゲの国のコトバとは、違う、コトバ。
訥々と深みのある調子で、ゆっくりと、マユゲはなにかを喋っていた。
マユゲじゃない? ヒゲは混乱した。
たしかに目の前にいるのはマユゲだ。
しかし、喋るコトバやモノゴシやシグサは、ヒゲの知るマユゲのそれではなかった。
マユゲはたしかにマユゲだ。しかし、ヒゲの知るマユゲではない。
つまり、彼女は、ワタシのマユゲでは、ない。似ているがちがうダレカのマユゲだ。
ヒゲの混乱をよそに、マユゲはヒゲにむかって喋りつづけていた。
遠い目をして、ときどきはにかみながら、訥々と、なにかをヒゲに語りかけていた。
戸惑っていると、マユゲはさらにヒゲに近くに寄ってきて、ヒゲの手を取った。
ヒゲは心臓がとまりそうになった。
マユゲはやさしくほほえむと、ヒゲの手を引っぱり、夜の町へと歩き出した。