マユゲに手をひかれヒゲは夜の町を歩いた。港町だった。
埠頭に沿って屋台が並び、皆が酒を飲み、何かを食べている。
赤だの黒だのの、どろどろした、ヒゲの見たことのない食べものが並んでいた。
馴染みのないアクの強い匂いがただよっている。
楽しげであった。皆、ヒゲの知らないコトバで喋っている。
ヒゲもお腹がへっていた。からだも冷えこんでいた。
磯の香りのする、ぐつぐつ煮込んだ屋台の料理を食べたくなった。
しかしマユゲは足をとめず通りをどんどん進んでいく。
ときどきヒゲをふりかえり何かを喋りかけた。ヒゲもなんとなく愛想わらいをして応えた。
にわかに屋台がとぎれ、人気のない、路地に入った。
ヒゲの国ではあまり見かけない、石だたみの、狭い路地だった。
ふるびた重たい石の建物が並んでいる。
ヒゲは不安になった。どこに連れていかれるのだろう。
ニュースで見たことがある。異国の、なにもしらない旅行者をねらった犯罪…
甘いささやきにのって命を落とす。そんなこともあるのかもしれない。
ヒゲが死んだら、ワタシはかなしむだろうか。
マユゲはどんどん路地の奥に入っていく。