ヒゲを手まねきして、マユゲは、扉の中へ入っていった。
誰もいなくなった、まんまるの満月が照らす路地を、ヒゲは、歩きだした。
どこかの建物から、かすかに、歌声が聞こえてくる。
ヒゲの知っている曲だった。言葉は違うがメロディーはたしかにあの曲。
ふぁーらすぇすぇすぇふぇ~~~。
ヒゲは、扉の入口に立ち、看板をみあげた。
ふぁ~らふぇ~すぁ~らふぇ~。
読むことはできないがこの国に入ってからたびたび目にしたためいくらか見慣れてきた文字。
ふぁーらすぇすぇすぇふぇ~~~。
ここは、なにかの建物で、ここは、その、入口なのだ。
不思議と怖さは、もう、なかった。
マユゲがひらいたままにした扉を、ヒゲは、またいだ。
どこかの歌声は終わったようで、つづいて大きな笑い声が聞こえてきた。
ヒゲは、扉を閉めた。
ばたん。
薄くらい静寂がヒゲをつつんだ。
目がなれてくると、赤い絨毯のうえに、ヒゲは立っていた。
短い廊下があり、その先に、階段があった。